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ミクロとマクロ (1989)
半分に切断されたドラム缶41本が、規則的に並ぶ。缶の一つひとつの中をのぞくと、この土地の自然や人々の営みの縮図が収まっている。
「『丸ごととらえたい』『一つひとつを細部にわたって見てみたい』という人間の欲望の二面性を作品で表した」という丸山常生さん(33)。遠近法を利用し、ミクロとマクロの世界を同時に表す作品を手がけている。
東京湾岸の埋め立ての土を塗り付けたパネルを数百枚並べた。一歩退いてみると、都市のなれの果てとしての姿と、誰も手を付けていない未開地の姿を併せ持った風景が浮かび上がる。その周りの壁に、埋め立て地で拾った土がついたままのプラスチック、ブリキ、ガラスを刺した。
野草が風に揺れ、一見自然のように見える埋め立て地。実は、絶え間なく排出される人間社会の廃棄物でできている。壁に刺した拾得物に近づけば、ガラスの割れる音、生ゴミのくさったにおいを感じる。視覚から嗅覚(きゅうかく)、触覚へと五感が広がり、すべてのものが、発生し、破壊され、再生するサイクルの中で変化することに改めて気づく。
「造形的に美しいものをつくりあげることにあまり興味はない。人間が生きていく中で生じた行為や出来事をできるだけニュートラル(中立)に美術で表していきたい。」
丸山 常生 1956年生まれ。東京芸術大学油絵科修了。ラジオや無線機を使ったパフォーマンスも続ける。
平成元年 1989.11.9 朝日新聞(福島版) 神林 格