環境アートについて   (1993)

「環境アート」と呼ばれる分野の先駆的な例として、1970年代アメリカにおける、R・スミッソン、W・デ・マリア、M・ハイザーたちに代表されるアースワーク(ランド・アート)と呼ばれる大規模な野外芸術作品。R・ロング、H・フルトンらの大袈裟に自然に手を加えないイギリスの自然派アーティストたちの試み。自らの芸術表現行為と社会生活全体を一体化させようとするドイツのJ・ボイスの“社会彫刻”の試み。一般的なパブリックアート(公共美術)の枠を越えて、制作過程全体を提示していくクリストの試みなどがあげられる。

近代以降、アーティストたちが「環境」という概念を積極的に意識し始めたのは、1960年代になってからである。その当時の美術史的背景としては以下のようなことがあげられよう。

■ モダンアートを今世紀成立させてきた規範としての、芸術を抽象化・純粋化し、知覚の連続性を獲得しようとした動き(抽象表現主義・ミニマルアート・コンセプチュアルアート)が極限化した。
■ マスメディアそのものを表現対象としたポップアートに代表される、芸術の日常性への接近。
■ 自然と対決し、個人のアイデンティティーを確立しようとしてきた西欧モダンアートへの内部的な疑義の申し立て。

…などいった要因があった。つまりそれは従来のモダンアートの認識を越えた時間や空間の広がりが、アートの重要な要素であるということが再確認され、因襲的な美術館やギャラリーの束縛から逃れ、現実の「環境」に自らが参加し、表現するという立場をアーティストがとり始めたということである。

また、一般的に「環境」というと自然環境をイメージしがちだが、それだけではなく、いくつもの人工的なメディアのネットワークが複合した都市的・電子的な社会(場合によって神も対象になりうる)にまで概念を拡げてとらえる必要性もある。そこではナム・ジュン・パイクのような、ビデオなどを用いたマルチメディア的表現も「環境アート」の範疇に入れることが可能であり、作家のコンセプトと無関係に、単にエコロジカルなキャンペーンに連動したアートの総称を「環境アート」と呼ぶのは、本来の意味から言って適切なことではないといえよう。
(丸山常生)


            1993.2月 『環境アート展』カタログ゙ 「美術における環境アート」の紹介文
  

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