制約を乗り越えて (1980)
善かれ悪しかれ芸大卒という制度的制約が私たちに纏わりついてきます。それに対し幾多の疑念を抱くにせよ、否定することはできません。また、表現すること自体の構造も現実の状況において、様々な制約を抱えています。
今、私はなぜ表現するのかという問いに答えるすべを知りません。表現行為そのものを自己目的化したり、他律的な名目に委ねたりすることは容易ですが、性急に答えを出すことなく、この豊饒な世界の相の中で存在するものの多義的な意味やイメージを感知しつつ、現実の様々な制約から自由であり続けたいと思っています。歴史の移行の原動力は単なる時の経過でなく、その時々において、制約をなんとか乗り越えようとする創造的精神なのですから。
「月刊美術」1980.5月号「東京芸大の学生の『卒業制作』とその絵画観」より