全ての環境(場所・もの・しぐさ)には、それぞれ無数の固有のイメージや特異性が潜んでいる。現実の三次元の空間に、幾重にも襞のように別次元が折り畳まれているという、最先端物理学の理論を持ち出さずとも、これは、実はわれわれ人間にとって、なつかしい考え方でもある。

例えば、M・プルーストの、最愛の祖母を亡くした時、初め感じなかった悲しみが、しばらく経ったある日靴ひもを解こうと身をかがめた瞬間、溢れ出したという逸話。あるいは、川端康成の『名人』に描写された、「三百六十有一路の中に、天地自然や人生の理法をふくむ」と言われる、囲碁の盤面で繰り広げられる、対局者の心理の文(あや)の無限性。
ある場所にたたずんだり、あるしぐさをした時に、突然昔の出来事を思い出したり、分からなかったことが理解できるようになったりする経験は、誰にも身に覚えがあるだろう。

空間と物と身体は、常にそれぞれの固有性において相互関係にある。私のインスタレーションやパフォーマンス(私はそれを"install-action"と呼んでいる)は、その関係 =「間」(すなわち環境そのもの)に潜んでいるイメージを、ある意図と偶然を伴って引き出し、繰り広げ、組み替えていくプロセスに他ならない。

2015.9月 芸術の絆 2015 - TSA中日交流展 カタログにおけるコメント


作品「場をひらく」の前で行った、パフォーマンス「場をほぐす」


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