昨年の〈NY 9.11〉の時、私は前回の「Simultaneous Positioning」シリーズの作品をドイツ・ケルンの個展で発表していた。この時のビデオ作品は“二本の支柱”の間を、フォーカスが交互に行きつ戻りつし、その支柱のカットされた狭い表面上で起こるささやかな生死の出来事を映像化したものだった。そして、当日の午後、帰国の準備をしていた私の眼に、例の衝撃的な映像がテレビから飛び込んできた…。帰国後しばらくして、作品の中の支柱と崩壊したWTCが、私の中で次第にダブるようになった。偶然とはいえ、作品のテーマと形態が、あの出来事とその後の経緯にオーバーラップしていったのだ。

  


現在の世界の様々な現象を読み解くには、自らの眼差しを移動と固定のくり返しによって、世界のあらゆるところに遍在させることが必要だと思う。まず、そのための「回路」を拓きたい。そこで、今回の作品も前回同様“柱”を用いることにした。その切断面に眼差しをそそぎ、ささやかな身体行為をほどこす。それが、例えばヒトの脳や、世界中の都市の様々な場所に、時空やスケールが転移しながら一挙につながっていく「回路」の入口になるように。

「グラウンドゼロ」は世界のあまねく場所に存在しうるのだ。

トキ・アートスペース個展におけるコメント 2002.12月


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